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ビッグメゾンからオファー殺到の歴史

孤高のデザイナー RAF SIMONS（ラフ・シモンズ）

　 RAF SIMONS（ラフ・シモンズ）は、1968年にベルギーのヘンクにある小さな村で生まれ、アートもファッションにも無縁の村と両親のもと数少ない娯楽であったテレビ番組とレコード店に通いながら幼少期を過ごします。

パリやロンドン、ニューヨークには何があるかもわからないような片田舎でなぜ天才デザイナーが育ったのか謎ですが、実はラフ・シモンズが崇拝するマルタン・マルジェラも同郷だったということは驚きです。
こうした田舎町で育ったがためにすべてを想像に委ね、それがラフ・シモンズの思考プロセスを形成していったのかもしれません。

地元の大学に通い、インダストリアルデザインを専攻していましたがファッションに興味を持っていたため、当時力を付けていたベルギーのデザイナーの中からアントワープの6人にも数えられるウォルター・ヴァン・ベイレンドンクに手紙を送り、働かせてもらえるように頼んだのです。
なぜウォルターだったかというとファッションだけではなく家具デザインやプレゼンテーションなども行っていたため、ファッションではなくインダストリアルデザインを学ぶ自分を受け入れてくれると踏んだのです。

このチャレンジは正解で、ウォルターの下でインターンとして働くことができ、さらにマルタン・マルジェラのショーや他のコレクションにも連れられ、そこで見たマルジェラの荒廃的なショーはこれまでのファッションのイメージをぶち壊し、大きな衝撃を受けたことがラフ・シモンズのその後の方向性を決定づけるような出会いとなりました。

ただ、専攻はインダストリアルデザインであり、1991年の卒業後はベルギーからカッシーナやカッペリーニなどの大手ブランドのあるイタリアへ渡ることを躊躇し、小さな家具ギャラリーで働き始めることになったのです。
いくつかのギャラリーや家具デザインを行いましたが、ファッションへの想いを断ち切ることが出来ず、独学でファッションデザインを行っていきました。

稀有な才能には自然と『出会い』が生まれる

　 ブランドとしてRAF SIMONS（ラフシモンズ）を立ち上げるにあたり、そこには有名な逸話があります。
独学でファッションデザインを行ったラフは、何点かのブラックスーツとノースリーブシャツを持ってアントワープ王立美術アカデミーのファッション部門責任者リンダ・ロッパに会いに行ったのです。

もちろん目的はリンダ・ロッパに認められ、アントワープに入学して正規にファッションを学ぶことでした。
しかし、実際には予想の斜め上をいく事態となりました。
リンダ・ロッパからは「あなたが学ぶことはここにない」と言われ、いきなり独立してコレクションを発表することを提案されたのです。
いきなり感がすごいですが、やはり稀代の才能を持つ人物には成功に至る大きな『出会い』があるもので、このリンダ・ロッパとの出会いが、伝説ともなるラフシモンズの幕開けとなったのです。

1995年秋冬に最初のコレクションをリンダ・ロッパのサポートを受けながら開催したのですが、リンダ・ロッパに持ち込んだアイテムがそのままコレクションに使われたのです。

ある意味では半ば強引にブランドの立ち上げを促されたので、数年間は右も左を分からぬままがむしゃらにコレクションを発表しました。


コレクションには『素人』のモデルを起用することがラフシモンズ流であり、モデルを募るためにラジオ広告を流したりもしたことで話題にもなりました。 ショーもラフのアイデアに基づいたオリジナリティのあるもので、初めて見たマルジェラの独創的なショーに触発された可能性も高いでしょう。

こうした既成概念を破壊するようなアプローチが若者の間で爆発的なヒットとなり、90年代のカリスマ的存在へと成長していったのです。

ブランド休止による充電期間を経てのリスタート

　 1999年にはイタリア トスカーナのファッションブランドRuffo Research（ルッフォ・リサーチ）が若手デザイナーと共同で作るコンテンポラリーコレクションを手掛けるデザイナーに選出され、当時の恋人ヴェロニク・ブランキーノと共に2シーズンのコレクションを手掛けます。

この活動が今後数々の大手メゾンのクリエイションを手掛けることになる第1歩となりました。

しかし2000年に突如としてブランドの活動を休止するという発表を行い、業界を騒然とさせました。
理由としては「作品作りの理由をみつめ直し、時間をかけて新たな方向性を見つける」ためだったとされていますが、強引なデビューから一気に駆け抜けてきたため、休養や会社としての内部構造の立て直しなどもあったのだと思います。

休止期間にはオーストリアにあるウィーン応用芸術大学のファッション科で教鞭をとり、カール・ラガーフェルドやジルサンダー、ヘルムートラングなどと同様にウィーン応用芸術大学の教壇に立ちました。

この1年の休養期間にベルギーのメーカーCIGとのパートナーシップを構築し、2001年にデザインチームを縮小し、より綿密に作業ができる体制を作って再始動したのです。

メンズファッションを再定義し躍進

　 復帰してからのラフシモンズは、90年代のコレクションとは違うスタイルを提案し、特大サイズやレイヤードスタイルによってメンズファッションを再定義しました。
ある意味では、後にブレークするラグジュアリーストリートにも通じるもので、当時は大きな論争を呼ぶほどセンセーショナルな復活劇となったのです。

2003年に現在ではデザイナーの登竜門としても有名になった新しい才能を発掘するためのスイス・テキスタイル・アワードを獲得し、当時はリスタート間もない経営難の状態を賞金約1,000万円によって救われています。

ラフ・シモンズの勢いはとどまるところを知らず、2005年にはJIL SANDER（ジルサンダー）のクリエイティブ・ディレクターに任命されました。
最も難しい創業デザイナーの後任という大役を2012年まで務めることになり、これまでレディースラインだけだったジルサンダーのメンズラインもはじめ、ディフュージョンラインの「ジルサンダーネイビー」の立ち上げなどデザイン面でもビジネス面でもブランドの価値を高めることに成功しました。

2006年にはディフュージョンラインのラフ・バイ・ラフシモンズ（RAF BY RAF SIMONS）をスタートさせ、2008年には東京と大阪にフラッグシップショップをオープン、さらにフレッドペリーやEastpak（イーストパック）、アシックスとのコラボレーションを行うなど精力的な活動を続けます。

ビッグメゾンによるラフ・シモンズ争奪戦

　 2011年にはRAF BY RAF SIMONS（ラフ・バイ・ラフシモンズ）がRAF SIMONS 1995へと変わり、90年代の初期コレクションのエッセンスを含んだラインであり、さらにホームコレクションも含まれたラフシモンズの原点に回帰するようなラインとなりました。

2012年にはジルサンダーのクリエイティブ・ディレクターを退任しますが、退任と時を同じくして今度はジョン・ガリアーノの後任としてDior（ディオール）のアーティスティック・ディレクターに就任することになったのです。
メンズラインはクリス・ヴァン・アッシュが在任していたため、レディースラインのみを担当することになりました。
ラフ・シモンズによるディオールのコレクションは好評で、「Diorと私」という映画化までされたほどです。

2013年にはadidas（アディダス）とのコラボレーション「adidas by RAF SIMONS」を発表し、スニーカーシーンに旋風を巻き起こします。
ラグジュリーとスニーカーの融合は現在では当たり前ですが、ラフシモンズのコラボレーションはやはり先見の明を感じさせます。


　 2015年にディオールのアーティスティック・ディレクターを退任しましたが、その翌年には更なるビッグニュースが舞い込みます。
アメリカのビッグブランドCalvin Clein（カルバン・クライン）のチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任することが発表されたのです。
カルバン・クラインの全てのブランド戦略をグローバルでリードする大役であり、実際ラフ・シモンズのデザインするカルバン・クラインのコレクションラインというのはファッショニスタから大きな支持を集めました。

しかし、カルバン・クラインほどのビッグブランドになるとコレクションラインよりも普及ラインの売上が圧倒的に大きく、コレクションラインを重要視されなかったため、方向性の違いからわずか2年ほどで退任することになりました。
これには多くのファンから悲しみの声が上がりました。

さらに2020年3月にはなんとPRADA（プラダ）の共同クリエイティブ・ディレクターに就任することが発表されました。
長年にわたりプラダを支えてきた創業者一族のミウッチャ・プラダと共に共同でクリエイションを行います。
ジルサンダーは当時プラダグループだったため、その時の縁もあったのではないでしょうか。 ミウッチャとの共同クリエイションには注目が集まっています。


今ではラフシモンズというブランドは、伝説的なブランドとなり、90年代や2000年代初期のアーカイブは、プレミア価格がつくほどリバイバルしています。
今後も新しいファッションの価値を創造するようなクリエイションを続け、驚きを与えてほしいですね。

次は、「ファッション常識を覆すコレクション」

この記事を監修しているのは？

ラグジュアリーブランド・ハイファッション調査部門

ラグジュアリーブランドやハイブランドでの勤務経験者、雑誌編集者、とにかくラグジュアリーブランドやハイブランドが好きなメンバーで編成。
好みや主観が入ったり、否定的な意見が存在するのは、ハイブランド.comの味であり、外部からの影響から独立しているからこそ出来ること。
世の中のトレンドや流れを敏感に察知し、常に新しい情報を発信出来るように奮闘しています。

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