誰もが憧れるラグジュアリーストリート
よく聞くラグジュアリーストリートっていったい何なの?
ラグジュアリーストリートという言葉が急速に市民権を獲得し、いまやファッション業界全体としても大きなトレンドを形成している感があります。
ルイ・ヴィトンとシュープリームのコラボレーションにはショップの前に長蛇の列ができ、もともと希少価値の高いコレクションが買い占めや転売などによってプレミア化し価格も高騰。
バレンシアガにヴェトモンのデムナ・ヴァザリア、ルイ・ヴィトンのメンズ部門にはオフホワイトのヴァージル・アブローがクリエイティブ・ディレクターに就任したことでその流れがより一層強まってきました。
これまでなかなか交わることのなかった歴史あるラグジュアリーブランドとストリートブランドの垣根がなくなりつつあり、高級なストリートウェア、ラグジュアリーブランドのスポーティー、ストリートスタイル、ハイブランドとストリートアイテムを組み合わせるというのが当たり前になったというのはファッションにおける改革とも言えるくらいのインパクトです。
今や世界的にも影響力の高いセレブリティ、ファッショニスタ、インフルエンサーなどがラグジュアリーストリートファッションを着こなしていますので、この流れの背景を知り、うまくトレンドを乗りこなしていきましょう。
流行の発信はいつもインフルエンサーとなるセレブリティ
歴史的にみるとオードリー・ヘップバーンやダイアナ元皇太子妃やジャクリーン・ケネディ・オナシスといった世界に対して絶大な影響力を持つファッションアイコンが時代のファッション、ブランドをけん引してきました。
ラグジュアリーストリートもそういった意味では例外ではなく、むしろインスタグラムなどを中心としたSNSが発展している現代ではセレブリティ、ファッショニスタ、インフルエンサーによって一気に広まったといえます。
ラグジュアリーストリートスタイルのセレブリティとして真っ先に名前が上がるのはカニエ・ウエストで間違いないでしょう。
自身がラグストのムーブメントを起こした立役者でもあるため、カニエ・ウエストが着用したブランド、アイテムというのは爆売れします。
他にもストリートスタイルということでエイサップロッキーやジャスティン・ビーバー、G-Dragonなどはラグスト界ではおなじみ。
女性ではリアーナやケンダル・ジェンナー、ジジ・ハディッド、ウィロー・スミスなど。
日本でいくと3代目J Soul Brothersがラグストをけん引していて、3代目の登坂さん、ELLYさん、今市さんなどがインスタグラムにアップしたブランドは日本ではブレークする傾向にあります。
今も昔も変わらず、ファッションアイコンが着用したブランド、アイテム、またはインスタグラムに投稿した写真からブームが創り出されています。
ラグストはどこから来て、どこへ向かう?
ラグジュアリーストリート、今では略して「ラグスト」などと呼ばれることも多いですが、これほどまでにラグジュアリーストリートが世に広まった第一人者として知られるのはOff-White(オフホワイト)を立ち上げ、ルイ・ヴィトンのクリエイティブ・ディレクターにまでなったヴァージル・アブローです。
そして、そのヴァージル・アブロー以上にラグジュアリーストリート界で影響力を発揮しているのがカニエ・ウエスト。
カニエ・ウエストはアーティスト、プロデューサー、デザイナーなどの様々な顔を持つ「/(スラッシャー)」。
実はヴァージル・アブローはもともとカニエ・ウエストのクリエイティブ・ディレクターとして知られており、2人の親交は深く、この2人を中心としたカニエ・ファミリーがラグストの発端であり中心となっています。
何がきっかけかという意味では色々な考え方がありますし、明確にここがスタート地点というのは難しいとは思いますが強いて挙げるとするとPyrex Vision(パイレックスヴィジョン)ではないでしょうか。
ヴァージル・アブローが2012年からYoutubeにアップしていたミュージックビデオのプロジェクトで、そこで着用されるアイテムが話題になりファッションブランドとして立ち上げ、そこからオフホワイトへと発展していきました。
そして、面白いのはラグジュアリーストリートを賑わせているブランドは、カニエ・ウエストやヴァージル・アブローと少なからず関係があることがほとんど。
例えば、HERON PRESTON(ヘロンプレストン)や1017 ALYX 9SM(アリクス)のマシュー・ウィリアムズは、BEEN TRILL(ビーントリル)という伝説のクリエイティブ集団でありDJクルーをヴァージル・アブローと3人で立ち上げています。
A-COLD-WALL(アコールドウォール)のサミュエル・ロスはカニエ・ウエストやヴァージル・アブローのもとで修業を積んだ後にブランドをスタートさせています。
カニエやヴァージルに並ぶほどの影響力を持つと言われるFear of God(フィアオブゴッド)のジェリー・ロレンゾも自身の主催していたJL Nightsというイベントからカニエ・ウエストと親しくなっています。
ラグジュアリーストリートはアメリカを中心として語られることが多いですが、ヨーロッパでも独自の発展を遂げています。
デムナ・ヴァザリアもVETEMENTS(ヴェトモン)の成功だけでなく、BALANCIAGA(バレンシアガ)をラグジュアリーストリートの中心にまで持っていったことからラグジュアリーストリートを切り開いたひとりと言えるでしょう。
ただバレンシアガの成功の裏にはマーティン・ローズという存在があり、あまり知られていないですがデムナのバレンシアガ就任時にメンズ部門のクリエイティブを担当していたのです。
マーティン・ローズもラグジュアリーストリートブランドとして有名ですし、実はヴァージル、マシュー、ヘロンのBEEN TRILL(ビーントリル)とのコラボレーションも過去に行っています。
しかもこれを引き合わせたのが当時ルイ・ヴィトンのメンズクリエイティブ・ディレクターだったキム・ジョーンズなのです。
他にもMARCERO BURLON(マルセロ・ブロン)は、独自色が強いですが実は彼もGIVANCY(ジバンシィ)、そしてBURBERRY(バーバリー)のクリエイティブ・ディレクターとして歴史あるメゾンをストリート感溢れる現代的ブランドに改革したリカルド・ティッシのPRを行っていたという人物。
さらにはLOEWE(ロエベ)のクリエイティブ・ディレクターを務め、ストリート感のあるクリエションを提案しているJ.W.アンダーソンとも昔からの大親友なのです。
こうした新世代のクリエイターたちによってラグジュアリーストリートというカルチャーは支えられ、発展してきています。
また、ユニークなのはこうした新時代のデザイナーはデザインの勉強をしたことがなかったり、DJやイベントオーガナイザー、フォトグラファーなど様々な才能を併せ持っている人物が多く、肩書を「/」で区切らないといけないことから「スラッシャー」と呼ばれています。
こうしたマルチな才能を持っていることから、これまでにない発想でカルチャーそのものを変えていくようなアイディアを生み出し続けているのです。
ラグジュアリーストリートを作るには何を着ればいいの?
「ラグジュアリーストリートとはどんなスタイリングですか?」
と問われてもっとも簡単な答え方をすると
Tシャツとスニーカー、それとパーカーを合わせる
こんな答えになるのではないかと思います。
ラグジュアリーストリートというのはアイテムだけをとってみると実は目新しいものではなく、Tシャツやスニーカー、パーカー、デニム、レザージャケット、ハーフパンツなどこれまでストリートに普通に存在していたウェアを素材にこだわり、縫製や仕立てにこだわり、そしてデザインにデザイナー特有のエッセンスを加えて高級に作ったものです。
それでもあえてラグジュアリーストリートのキーワードを上げていくとすると
■ オーバーサイズ、ビッグシルエット
■ キャッチーなカラーコーディネート
■ レタリング、グラフィック
■ ミックステイスト、ミックスカルチャー
■ インダストリアルなマテリアル
■ ハイエンドなボリュームスニーカー
などが挙げられます。
オーバーサイズ、ビッグシルエット
オーバーサイズやビッグシルエットというのはラグジュアリーストリートの中でも最も分かりやすい例かもしれません。
オーバーサイズでは代名詞ともなっているのがヴェトモン。
袖が異常に長いパーカーやボンバージャケットなどボリューム感たっぷりのトップスによってアンバランスなシルエットを生み出し、その対比がこれまでにないスタイリングを生み出しています。
しかし、オーバーサイズの元祖は実はマーティンローズでヴェトモンよりも早くオーバーサイズやアンバランスなシルエットを生み出しており、トップスだけではなく、短すぎたり、ワイドすぎるボトムスなど絶妙なバランス感覚でコーディネートを作り上げます。
こうしたオーバーサイズのアイテムというのは瞬く間にストリートに拡散され、ラグストブランドだけではなく、一般的なストリートの傾向としてトレンドを形成しました。
キャッチーなカラーコーディネート
ラグジュアリーストリートは基本的にモノトーンでブラックなどを基調にしているケースがとても多いです。
しかし、そこにアクセントカラーとしてビビットなカラーを刺すことで一気にストリート感がアップします。
例えばオフホワイトなどを例にとると分かりやすいですが、オフホワイトのアイテムというのはブラック&ホワイトのストライプデザインを筆頭としてモノトーンテイストが多いのですが、そこにビビットなイエローを効果的に使うことでオフホワイト感がすごく出てきます。
イエローのロゴ入りベルトやアイコンのクロスアローなどが入るとものすごくかっこいいのです。
ヘロンプレストンなどもブランドカラーのオレンジをうまく使っていて、タグのさりげないオレンジ、アイテム全体をオレンジ、さらにはオレンジのラインをアクセントカラーに使うなどカラーバランスの妙が光ります。
他にもマルセロ・ブロンでよく見られるのがビビットカラーでのグラデーションやタイダイのような全体を独特のカラーで染めるなどのアプローチもあります。
レタリング、グラフィック
ロゴデザインなどはそのものズバリではありますが、ラグジュアリーストリートブランドではロゴを前面に出すのはかなり多いと思います。
特にパーカーやTシャツなどのバックプリントロゴなどはブランドの定番アイテムになっていることも多く、インパクトも強いのでよく使われています。
また、ブランド名だけではなく別の意味合いを持つ言葉であったり、ヘロンプレストンのロシアのキリル文字を使ったものなどバリエーションも豊富。
落書きのようなアートっぽいものも人気があります。
グラフィックも同様でマルセロ・ブロンなどは動物のモチーフをしたもの、故郷アルゼンチンのパタゴニアクロスモチーフやウィングモチーフなどを大胆にプリントするのが持ち味。
FAITH CONNEXTION(フェイス・コネクション)では、アートデザイナーがド派手にグラフィックペイントをほどこしたようなアイテムが人気を集めています。
ミックステイスト、ミックスカルチャー
ラグジュアリーストリートとひとくくりにはしますが、実はいろいろなテイストが溢れていてオフホワイトやパームエンジェルス、マルセロ・ブロンなどはヒップホップやスケート、クラブなどのアンダーグラウンドカルチャーが強いです。
一方でマーティンローズやPIGGALE(ピガール)などはロンドンやパリからの発信なのでテーラードのメッカ「サヴィル・ロウ」やオートクチュールの中心パリのカルチャーを踏襲するようなストリートでありながらもプレッピーやテーラードな要素を取り込んだエレガントなストリートスタイルが魅力。
マーティンローズはレゲエカルチャーも背景に色濃く出ているので、レゲエとテーラードという全く相いれないようなテイストがミックスされているというのがラグストの醍醐味でもあるでしょう。
アコールドウォールもロンドンのブランドであるため、ワークウェア中心のスタイルからテーラードなフォーマル要素を強めています。
また、AMIRI(アミリ)やフィアオブゴッドなどはアメカジのオールドスタイルをラグジュアリーに落とし込んだスタイリングで90年代くらいのグランジ感が漂います。
インダストリアルなデザイン、マテリアル
ヘロンプレストンやアコールドウォールはワークウェアをメインにしつつ新しい価値観を生み出している感じで、特にヘロンプレストンはNASA(アメリカ航空宇宙局)やDSNY(ニューヨーク市衛生局)などのコラボレーションにおいて現場で働く人のためのウェアとラグジュアリーを結び付けるという革新的なアイテムで注目を集めました。
1017 ALYX 9SM(アリクス)は、ジェットコースターの安全ベルトからキャッチーなローラーコースターベルトを考案し、Dior(ディオール)のコレクションとしても使われるなど人気を集めています。
オフホワイトでも結束バンドのようなディテールが良く使われていますが、こうした今までファッションデザインの中で使われてこなかった新しいマテリアルやアイディアを取り込んでいくというのもラグストの特徴と言えるでしょう。
ハイエンドなボリュームスニーカー
ラグジュアリーストリートとスニーカーというのは切っても切れない縁というくらいに密接に関連づいていて、バレンシアガがリリースした「トリプルエス」でダッドスニーカー(おじさんが履くださいスニーカーという意味)という新しいジャンルを生み出しましたし、ボリューム感のあるラグジュアリースニーカーというのをあらゆるラグジュアリーブランドがリリースしています。
実はこのラグジュアリースニーカーという概念を一番先に打ち出したのはRICK OWENS(リック・オウエンス)ではないかと思います。
モードとストリートを融合させるようなハイエンドなボリュームスニーカーとして2006年に発表したGEO BASKET(ジオバスケット)は今もなおリック・オウエンスの定番スニーカーとなっています。
リリース直後はNIKE(ナイキ)のスウォッシュを模したデザインからクレームがあり、デザインを変更して今のデザインとなっています。
ナイキに関してはあらゆるラグジュアリーストリートブランドとコラボレーションしているといってもいいほどコラボレーションをしているので、スニーカーブームの中でもやはり中心はナイキということになります。
品質の高さもラグジュアリーストリートの真骨頂
ラグジュアリーストリートブランドのコンセプトや信念、こだわりをみるとある意味では歴史あるメゾンブランドに匹敵する、またはそれ以上のクオリティを追及しているというのも大きな特徴のひとつ。
「自分の着たい服、欲しい服を作る」
こうしたポリシーに近い想いを持ってモノづくりをしているので、基本的にビジネスを考えた大量生産をするというよりも手作業で丁寧にひとつひとつ作っているというのは多い。
例えば、アミリでは本物のショットガンで打ち抜いたダメージ加工のトップスや手作業でダメージを与えて加工を行うDIY的な発想のアイテムが目立ち、当たり前ですが大量生産は不可能です。
フィアオブゴッドなども同じような考え方でいいものを作るためにロサンゼルスで作るという事にこだわり、ほとんどのアイテムをハンドメイドで生産しています。
こうしたブランドは素材や生地に関しても、こだわりが強くラグジュアリーメゾンで使われる生地と同じものを使ってスポーティー、ストリートなアイテムを作っているのです。
また、もうひとつは「Made in Italy メイド・イン・イタリー」にこだわるブランドもあります。
イタリアにNew Guards Group(ニューガーズグループ)というブランドコングロマリットがあり、今急速に勢力を核出しているのですが、ここに属しているのがオフホワイトやパームエンジェルス、マルセロ・ブロン、ヘロンプレストンなのです。
ニューガーズの生産拠点を背景にして、LA発だけどメイド・イン・イタリーのようなイタリアで生産することで、最高の素材、最高の職人を確保してハイクオリティなアイテムを作るという考え方です。
ラグジュアリーメゾンですら、生産をアジアなどの人件費が安い地域に移していく時代の中で、ラグジュアリーストリートブランドのハンドメイドや生産地にこだわる姿勢というのは新しいラグジュアリーの在り方を教えてくれるようです。
ラグジュアリーストリートについての成り立ちやスタイルなどについてお話していきましたが、ここからは具体的にラグジュアリーストリートにはどういったブランドがあるのか?という点について徹底解説していきます。