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ファッション史に残る独自のスタイル

「ヴァレンティノの赤」はデビュー前に完成していたという奇跡

　 クリスチャン・ディオールが「ニュールック」と言われたように、ヴァレンティノにも「ヴァレンティノの赤」と呼ばれる独自のスタイルがあります。
ヴァレンティノは赤のコレクションばかりを発表していたわけではありませんが、とりわけ『赤』に対して強いこだわりを持っていたので、ヴァレンティノの代名詞として赤が用いられることがとても多いのです。

それは、ディフュージョンラインとして「RED VALENTINO レッドヴァレンティノ」を発表したことからも窺い知れるというものです。

この赤に対するこだわりが生まれたのは、実はブランドの創設前でキャリアのスタートとなったジャン・ドゥッセのアトリエで修行しているときのことでした。
この時代にバルセロナへオペラを観に行き、そこで舞台衣装が赤で統一されていることに気づいたのです。
ヴァレンティノはこのオペラを観るまでは、白と黒こそが至高のカラーだと思っていました。しかし、このオペラで赤に統一された舞台を見てからというもの、彼の最も愛する色はレッドへと変わっていったのです。

ジャン・ドゥッセのアシスタントを務めていた5年間というのは、とくに目立つことはなかったのですが10枚ほどのスケッチを描いていました。
1991年に「ヴァレンティノ 魔術の30年」という回顧展を開いたときに当時描いていたスケッチを実際の形にすることになり、このデビュー前の初期の作品からすでに類稀なる才能を発揮していたことが判明したのです。

この時にすでに「ヴァレンティノの赤」は完成していました。
まるでギリシャの花瓶を思わせるような黒と白のグラフィック、マイセンの陶器を思わせるような刺繍、美しい黒と白のドレスなどとても20代前半の駆け出しのデザイナーが描いたとは思えないほどのものだったのです。

意表をつくあっと驚くコレクション

　 現在ラグジュアリーブランドの中で、大人気ブランドというわけではありませんが、ファッション史に残るような数々のスタイルを世に送り出してきました。
ヴァレンティノの赤と呼ばれていますが、毎シーズン基調となっていたのは、至高のカラーと考えていた黒と白の組合せです。

さらにヴァレンティノのもうひとつの代名詞となっているのは、ゼブラやヒョウ、ジラフといったアニマル・プリント。
これは現代においてもヴァレンティノの中で定番となっています。

そして、その時点における常識をくつがえすようなコレクションも発表し、周囲を驚かせてきました。

女性の窮屈なファッションから解放するためのウエストラインがゆったりとしたシュミーズ・ドレスが打ち出されたときは、薄手の素材に豪華な刺繍を施したり、羽根と毛皮のボーダー使いをしたりしてフェミニンな感性を残そうという工夫をしています。

ミニスカートが全盛期を迎えていた頃、スカートの丈をあえてふくらはぎのところにまで落としました。
当時はこれ以上ないというところまでスカートの丈が短くなっていたところに突如として正反対の方向にかじを切ったのです。
これにはファッション界全体が驚きましたが、結局その数シーズン後には皆がヴァレンティノに追随することになったのです。

ファッションにおけるモダンデザインの先駆者

　 ヴァレンティノはかねてから古代エジプトや古代ローマをはじめ現代絵画やアール・ヌーヴォー、ポップアートに至るまで世界の伝統・文化遺産を研究し、作品に取り入れてきました。

1980年代には花柄などのフェミニンなスタイルが主流になっている中で家具や建築から派生したようなダイナミックな幾何学模様、はっきとりした黒と白のコントラスト、手のひらよりも大きな円や幅広のストライプなど、大胆で明快なモダニズムを打ち出したのです。

「正方形のホフマン」と呼ばれる偉大な建築家がいるのですが、このヨーゼフ・ホフマンの名前もヴァレンティノのコレクションを通して知られることになったほど圧倒的な輝きを放つものでした。

成熟期を迎えたヴァレンティノのコレクション

　 ヴァレンティノの作品は1980年代に完全なる成熟期を迎えます。
卓越した職人芸とエレガントな中にも繊細なタッチの刺繍、ブリーツを掛け合わせまさに芸術品の域に至るのです。

ディテールには日本の漆箱やアール・デコ建築、中国の黒壇、中世の彫刻に至るまで様々な文化を取り入れてもモチーフを作り込んでいきます。

なにげない蝶結びはシンプルな黒いスーツの前身頃に、パッチワークキルトのデザインは表面がビーズのジャケットへ、馬の繋ぎ輪は三つ編みになり、ジャケットの留め具へと変わるのです。
次々とアイデアが溢れ出し、これまでにないデザインを次々と生み出していきました。

他にも機能的なものとして、ボタンをかければ一枚の暖かいコートに、そしてボタンを外すと二枚の薄手のコートに変身するようなダブルコートなどもあります。

エレガントなドレスの基本は黒で、白やベージュ系のトーンと組み合わせて黒を強調します。
このデザインを基本に「赤」で華を添える。

ヴァレンティノのコレクションには人を惹きつける魅力があります。
彼の顧客に世界の名士が集まってくるのは、こうした人々の注目を集めたいというスター達の望みを如実に実現していることにあるのです。

次は、「ヴァレンティノをこよなく愛するセレブ」

この記事を監修しているのは？

ラグジュアリーブランド・ハイファッション調査部門

ラグジュアリーブランドやハイブランドでの勤務経験者、雑誌編集者、とにかくラグジュアリーブランドやハイブランドが好きなメンバーで編成。
好みや主観が入ったり、否定的な意見が存在するのは、ハイブランド.comの味であり、外部からの影響から独立しているからこそ出来ること。
世の中のトレンドや流れを敏感に察知し、常に新しい情報を発信出来るように奮闘しています。

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