EMILIO PUCCI エミリオ・プッチ
プッチ柄で世界を制したエミリオ・プッチの歴史
貴族生まれのエミリオ・プッチ
創業者のエミリオ・プッチは、1914年にイタリアのフィレンツェで生まれました。
フィレンツェの由緒ある貴族のバルセント侯爵の家系で育ったエミリオ・プッチはミラノ大学卒業後にはアメリカに渡り、ジョージア州の大学、そしてオレゴン州のリード・カレッジにて社会学を専攻しています。
さらにイタリアに帰国後はフィレンツェの大学で学び、政治学の博士号を取得しておりファッションとは無縁の世界で勉学に励んでいました。
第2次世界大戦中にはイタリア空軍でパイロットを経験しており、さらに政治の世界へも進出しイタリア議会に10年ほど在籍していたこともあります。
一方では20歳の時にはスキーでイタリアのナショナルチームに選ばれ、オリンピックにも出場するほどの腕前を持っており、文武両道とはまさにこのことです。
こうしてみるとなぜファッションデザイナーになったのかが不思議なほどですが、スキーが後にエミリオ・プッチをファッションの世界へといざなうのです。
スキーウェアからブランドがスタート
プッチは貴族なのでいわゆるお坊ちゃまです。裕福な暮らしの中でスイスの山々やリゾート地のカプリ島を往来する熱心なスキーヤーでした。
そうした恵まれた家庭環境において、自身のファッションセンスに自信のあったプッチは、自らスキーウェアのデザインを手掛けていました。
当時はまだ1900年代も半ば、コルセットで身体を締め付ける服が主流の中で、プッチのデザインしたウェアは現代的なスポーツウェアに近い流線型シルエットのテーパードパンツとフーデッドパーカーという洗練されたスタイルでした。
そして、スタイリッシュで動きやすく当時は珍しかったカラフルなそのスタイルが撮影され、1947年に雑誌ハーパーズ・バザーに掲載されたことによってニューヨークに大きなセンセーションを巻き起こしたのです。
予想以上の人気を博したこともあり、ハーパーズ・バザーはエミリオ・プッチにスポーツウェアのデザインを依頼します。
このスポーツウェアがまた大ヒットをし、エミリオ・プッチはファッションデザイナーとして注目を集めるようになったのです。
これまでのコルセットやペチコートなどの堅苦しい身体の締め付けから女性を解放するために、女性らしいセクシーな曲線をキープしながら実用的でない部分を取っ払い、それまでなかった自由で動きやすい服を作っていきました。
時代は戦後、女性がよりアクティブに働きはじめたタイミングであり、オートクチュールの壁を壊し、現代的に、そして身近な存在にしていったのです。
貴族×アスリートという多才から生まれた革命
デビューからほどなくして1950年代の段階で今や代名詞ともなっているグラフィカルなプリントデザインを始めます。
万華鏡のように渦巻く、抽象的でコンテンポラリーアートのような幾何学模様はエミリオ・プッチを取り巻く、パリオの紋章旗、バリのバティック、アフリカンモチーフなどからインスピレーションを得ています。
この頃からファッション界では「プリントの王子」という異名で呼ばれるようになりました。
プッチの斬新なプリント柄というのは他に例がなく、模倣デザインが後を絶たないほどの人気になり、プリントに「Emilio」の手書きサインもこの頃に生まれています。
さらに時を同じくしてイタリアの生地メーカーと共同で、今で言うストレッチ素材の開発に乗り出しました。
コルセットなどもそうですが、素材においても重く柔軟性のない生地が蔓延する中で動きを妨げない柔軟な素材を求め、シルクストレッチジャージーやコットンジャージーといったオリジナル生地を開発し、特許も取得。
生地業界に革命をもたらしたのです。
この辺りの感覚は普通のファッションデザイナーというよりも貴族として華やかな生活やアスリートしての経験が多分に活きているのではないでしょうか。
世界のセレブリティに愛されるブランドへ
エミリオ・プッチはイタリアのカプリ島にブティックをオープンしました。
1950年代に入ると地中海でバカンスを過ごすことがセレブリティのトレンドにもなり、島の美しい自然とマッチする鮮やかなカラーのリゾートウェアを提案するようになります。
これまでにない画期的なリラックスでき、かつ上品なレディ・トゥ・ウェアに洗練されたセレブリティの間でもたちまち人気となったのです。
1951年にはフィレンツェで国際的なプレスとバイヤーにコレクションを発表します。
もともとハーパーズ・バザーによってニューヨークで注目を集めたプッチですが、シンプルで革新的なウェアはサックス・フィフス・アベニューやニーマン・マーカスなどのアメリカの百貨店でブレークし、アメリカ富裕層の求めていたスポーツウェアのニーズを見事に満たしていったのです。
その後は1960~70年代にはアメリカの富裕層の中でもスタイリッシュな女性たちから絶大な支持を集め、マリリン・モンローやソフィア・ローレン、ジャクリーン・ケネディ・オナシス、エリザベス・テイラー、グロリア・ギネスなど世界のファッションアイコンともなっている女性から愛されました。
エミリオ・プッチの活躍の場はファッションの世界だけにはとどまりませんでした。
1964年にはブラニフインターナショナル航空の客室乗務員の制服をデザインし、バブルヘルメットやブーツ、ビキニ、傘など近未来的な制服として発表しました。
1971年にはアポロ15号宇宙計画の使節団のロゴデザイン、1980年代のアメリカの高級車「リンカーン」や「コンチネンタル」の特別仕様車などインダストリアルデザインを手掛けるようなデザイナーへとなっていきます。
こうした様々な功績が称えられ、1990年にCFDA(アメリカファッション協議会)のファッション賞を受賞しています。
エミリオ・プッチ亡き後もブランドは続く
1992年にエミリオ・プッチはこの世を去りました。
エミリオ・プッチの死後は娘であるラウドミア・プッチがブランドを引き継ぎ、60年代リバイバルブームもあって人気が再燃しました。
2000年にはプッチ家と世界最大のブランドコングロマリットであるLVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)との間で提携を行い、LVMHグループの傘下へと入っています。
イメージ・ディレクターとしてラウドミア・プッチが父の意志を受け継ぎながら、才能あふれるクリエイティブ・ディレクターと協力しながらブランドの進化を続けています。
LVMHグループに入って以降、2001年にはジュリオ・エスパーダ、2003年からクリスチャン・ラクロワ、そして2006年にはマシュー・ウィリアムソン、2009年からピーター・デュンダスがクリエイティブ・ディレクターを務めました。
7年務め、ロベルト・カヴァリへの移籍が決まったピーター・デュンダスの後任として2015年からはMSGM(エムエスジーエム)の創業者マッシモ・ジョルジェッティが就きましたが、2017年に退任しています。
マッシモ・ジョルジェッティの退任後はデザインチームが舵を取り、社外のデザイナーを招聘する戦略に移行しましたが、2021年にルイ・ヴィトンのアクサセリー部門のヘッドを務めていたカミーユ・ミチェリをクリエイティブ・ディレクターに指名し、新しい体制を構築しています。
エミリオ・プッチの死後はなかなかクリエイティブ・ディレクターが落ち着かないエミリオ・プッチですが、ブランドとしてはウェアにバッグ、シューズ、アイウェア、ライフスタイル、2017年からはジュニアラインなども拡充され、エミリオ・プッチが創り上げた革新的なスタイルを継承しています。
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ラグジュアリーブランド・ハイファッション調査部門
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