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伝統技術サテライトとの共存

シャネルにおける技術の源泉はどこにあるのでしょうか？

　 シャネルというブランドは技術力の高さで有名である。
シャネルに限った話ではないかもしれない、エルメスやルイ・ヴィトンのようなトップを走るラグジュアリーブランドはやはり独自の哲学と圧倒的な技術力をもってその価値を保っているのです。

シャネルの技術の源泉は、フランス伝統遺産の保護にもつながっている高い技術力を持つ伝統技術工房のグループ化です。
2002年にフランスで伝統的な名門刺繍工房ルサージュなど5社を買収し、パラフェクシオン株式会社を創設しました。
パラフェクシオンはシャネルの子会社にあたるのですが、その関係性は対等に近いものでサテライトと呼ばれています。

サテライトとは「衛星」といった意味なので、シャネルを軸にしてその周りを支えるという意味でしょう。
関係性としてシャネル自身が持っていない独自の服飾技術を工房にまかなってもらい、その代わりに経営資源を提供するという関係にあります。
面白いのは、「サテライト・ラブ」と銘打たれた工房の技術を結集させたコレクションを展開しているということです。こうしたことからもいかにシャネルがサテライトの技術工房を重要視しているかが分かります。

シャネルのオートクチュールはフランスにおいて長年培われてきた伝統技術なしでは成り立たないようなものです。
一方で伝統工房からするとその技術というのは職人の腕にかかっている部分が大きく、昨今の工業化、機械化においてその需要はどんどん減ってきており、経営自体が成り立たなくなって閉鎖せざるを得ないような危機に直面しています。
こうした両者の利害関係が完全に一致しているので、グループ化による共存関係が成り立っているのです。

ラグジュアリーブランドにとって重要な伝統産業の保護

　 近年ではプレタポルテが主流となり、オートクチュールの需要自体が減ってきています。
そして、機械化がドンドンと進展し、ミシンが台頭してくると必ずしも手縫いでなくては服が作れないということはなくなっています。

こうした時代背景を考えると個人で経営する工房などが職人や設備を抱え、経営を続けていくに必要となるような需要を喚起し続けるというのは至難の業になっています。
こうなると当然、工房単体では立ちいかなくなり、大手企業に買収されるようなケースが多発するのですが、買収によってその技術の継承や独自性などが失われていった工房も珍しくありません。

そんな中でシャネルは工房の独自性を尊重し、共存するという関係を選んでいるのですが、そこにはある思いがあります。
まずシャネルでは、買収した工房がシャネル以外の仕事をすること認めています。
普通は職人や技術を抱え込み、技術の流出をさせないために囲い込むものだと思うのですが、そうはしないのです。

なぜなら工房の技術というのはシャネルだけのものではなく、フランスという国が持つ資産だと考えているからです。
そしてまた、他社の仕事を経験することで仕事の幅が広がり、新しい技術や経験をつみ、工房としての技術力の向上や新しいアイデアを発見することで工房、しいてはフランスの技術力の底上げを期待しています。

こうした考え方は、エルメスも然りなのですが伝統技術を継承し、発展させていくことがラグジュアリーブランドに不可欠だと認識しているからなのです。

サテライトから生まれる素晴らしいコレクション「メティエダール」

　 サテライトとしては2002年に名門刺繍工房の「ルサージュ（Lesage）」、名女優マレーネ ディートリッヒも顧客だった靴工房の「マサロ（Massaro）」、羽根細工とカメリアの「ルマリエ（Lemarié）」、コスチュームジュエリーのアトリエ「デリュ（Desrues）」、帽子のアトリエ「ミッシェル（Michel）」を傘下に収めました。

その後も、金銀細工の「ゴッサンス（Goossens）」やフローラルアクセサリーのアトリエ「ギエ（Guillet）」、高級レザーを使用したフランスのグローブ「コース（Causse）」といったフランスを代表するような素晴らしい工房が仲間に加わっています。

シャネルのメティエダールコレクションには、こういった素晴らしい伝統と歴史を持つサテライトの技術を集結させたような素晴らしいものがたくさんあり、2002年のパリのカンボン通りで行われた「サテライト・ラブ」から始まり、その後も世界各国の都市で各サテライトの魅せる技が披露されています。

こうした老舗工房をサポートして、技術や歴史を継承するだけでなく、その創造性をコレクションとして表現することで新しい活躍の場を創りだしています。
効率化を追求したような現代において時代に逆行するような伝統的な職人の技術を現代的なコレクションとして展開できるのはシャネル、そしてカール・ラガーフェルドというフランスの伝統、そして職人のもつ技術を尊重する考え方があってのものです。


自分たちで持つことはとても難しい、でも絶対に無くてはならない。
そんな高度な技術に惜しげも無く投資を行う。
時間もお金もかかる取り組みですが、伝統や職人技術というのは一度やめてしまうともう二度と取り戻せません。
続けていくには企業としての体力も必要です。
しかし、他には真似できないことを続けているからこそシャネルの唯一無二の価値というものが生み出されているということなのです。

→次は「心をつかむブランド・マーケティング」

この記事を監修しているのは？

ラグジュアリーブランド・ハイファッション調査部門

ラグジュアリーブランドやハイブランドでの勤務経験者、雑誌編集者、とにかくラグジュアリーブランドやハイブランドが好きなメンバーで編成。
好みや主観が入ったり、否定的な意見が存在するのは、ハイブランド.comの味であり、外部からの影響から独立しているからこそ出来ること。
世の中のトレンドや流れを敏感に察知し、常に新しい情報を発信出来るように奮闘しています。

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